堤亜由美　Ayumi Tsutsumi　2006

12月　／　一部始終 ブーツ脱ぐなり身の上を一部始終 抱つこ紐絡まつてゐる神の留守 幼子の体内時計寒波来る 児を抱いて体温移る寒北斗 ベッドメリー回り続けし寒さかな

11月　／　一匙の 吾子含む乳房に月の光かな ガラガラを振つて鳴らして文化の日 やや寒の人差し指を児が握り 一匙の水ふふませて鱗雲 グラタンの焦げ目ほどよき誕生日

10月　／　赤まんま 宅配で届く野菜や小鳥来る 今日泣いた分だけ眠り星降る夜 やはらかきものに吾子の手赤まんま 新松子嬰は笑ふを覚えをり ミルクティ傍で児が眠りたる

９月　／　色なき風 眠れない児に灯したる秋灯 児の涙ぬぐつて星の流るる夜 泣き疲れ眠る色なき風の中 乳を飲む音に秋色深まりぬ 海を思へばにび色の鍵の束

８月　／　明易 小さき手に小さき足に明易し ぐづる児に夏空白み始めたる 涼しさや腕の吾子の眠るまで タオルケット生れたての足蹴り上げて 児の声に耳聡くして夏の雨

７月　／　星祭 子宮蹴る吾子のリズムや麦の秋 里帰りして梔子の匂ひけり 夏至の日の臨月の足投げ出しぬ 児の寝息聞いて眠るも星祭 ブルーベリー母欄に名を記しては

６月　／　待ち針 二度かかる間違ひ電話雷雨来る その先に何か揺れゐる蛍の夜 草笛やいつかは父を越え行けり 待ち針を留め涼しさの届きけり 打ち明けて五月雨のタクシーの中

５月　／　こどもの日 どこまでも行ける気がして青き踏む 身ごもりし身を横たへて春の星 カルシウムビタミン鉄分こどもの日 生れ来るを待ちたる衣更へにけり 小さきもの小さく畳みて緑さす

４月　／　風車 本棚に本の傾げる立子の忌 旅立ちを決め回り出す風車 胎の子の内緒話や春の星 やり遂げて見上げてをりし夕桜 飛花落下向かうより名を呼ぶ人に