堤亜由美　Ayumi Tsutsumi　2011

12月　／　室の花 台本に増ゆる書込室の花 ぜんまいで動く人形雪催 部活帰りの冬芝の匂ひかな ストーブに拾ひきし石見せ合ひぬ 風邪心地どこか足りない絵描歌

11月　／　眠る山 年老いしポニーに揺られ冬ぬくし 眠る山里の赤んぼよく泣いて 安物の赤きピアスに寒波来る 子ども好きらし股引の左官工 肉まんを頬張つていま反抗期

10月　／　かりがね ハーブティー二人の距離の縮まりぬ かりがねや泣いてゐる子に子らが寄り 出来ぬこと出来ぬと言ひて曼珠沙華 先生を呼ぶ声秋の澄みにけり 色鳥や園児の列の折れたがり

９月　／　水の秋 顔つけて探す小魚水の秋 ジプシーの曲を最後に星月夜 鶏頭の道をぶつぶつ言ひながら 羽織るもの肌になじむ宿の秋 ぬかご飯村に獣の出る話

８月　／　向日葵 先客万来風鈴のよく鳴つて 向日葵に少年の日の渇きかな 笑ひ顔見たくて笑ひさくらんぼ 流星やどこにでもある話して 冒険の頁で閉づる夜半の秋

７月　／　氷菓 教育実習母校のプラタナス 額の花遠回りして子の帰る 夏至の日の切りたての髪揺らしくる 緑雨中すぐに開きて読む手紙 初恋のふたりに水色の氷菓

６月　／　空席 知らぬ街知らぬ階段薄暑光 副議長席の空席走り梅雨 長靴の父が迎へに梅雨の月 園長の今日の饒舌若葉風 短夜や白み初めたる水の星

５月　／　喧嘩 喧嘩の子止めたる柚子の花の下 ＵＶカット海の青変はる場所 海風のロビー茉莉花香り初む まだ秘密持たずに青き踏みにけり 白薔薇や少女の夢のすぐ変はり

４月　／　永き日 永き日の白き貝殻海に投げ 縁側に並んで座り山笑ふ 蝶の昼島に一つのポストかな 連なつて走る自転車風光る 桜湯に家族の写真見せ合ひぬ

３月　／　梅日和 花すみれ少女の涙ぽとり落つ 誰か来る日の桃の花ほころびぬ 話の輪外れてよりの梅日和 梅東風や校長室の掛け時計 をさな子を慕ふをさなご楓の芽

２月　／　ターザンロープ よく笑ふ村の長老雪解風 襤褸市を眺めて何も購はず 春愁の鍵より重きキーホルダー 春浅きターザンロープ撓みたる 夜更かしの子の剥きかけの蜜柑かな

１月　／　末つ子 悴みて末つ子のまづ戻りけり 田に夕日たつぷり溜めて今年果つ 創業の年を暖簾に寒椿 息白く万太郎の句読み合へる 空つぽの回転木馬冬日向