堤亜由美　Ayumi Tsutsumi　2016

12 月　／　呪文 年末調整濃きお茶を淹れてより 幼子に返す挨拶冬木の芽 母よりの短き電話冬林檎 筆箱に隠す呪文や冬ぬくし 縄跳びやよその子すぐに育ちたる

11 月　／　的当て 末つ子のタイツ捩れしまま眠る 的当ての男子冷やかし秋祭 老犬を膝にしばらく十三夜 自転車を引けば秋風ついて来る 母が来てをり熱々のぬかご飯

10 月　／　花のいろ 地球儀のどれも傾げる残暑かな 身に入むや流刑地に咲く花のいろ ハルモニの思ひ出話水の秋 虫の夜の売切れ多き販売機 木犀の香や向かうより夫の来る

9 月　／　西瓜 志望校決めたる髪をほどきけり サルビアや異国より花嫁の来て 大人びし横顔秋の雲速し 秋日和よく乾きたる旅の衣 西瓜甘くてシングルに戻りたる

8 月　／　大南風 絵日記にことさら青き一頁 あの頃のダンスナンバー夜の秋 大南風連れて候補者現るる 闇親し線香花火落つるまで 風鈴鳴りて旅長くなる便り

7 月　／　道標 真直ぐに来て泉への道標 虎の絵の猛りて暗き夏座敷 口下手同士フラッペを崩しをり 緑陰のラヂオ明日の晴れを告げ 持ち寄りしもの皆甘きパリー祭

6 月　／　夕焼けぬ 薬玉や生れたての脚蹴り上げて 駄菓子屋のラムネドロップ夕焼けぬ ウォータースライダーまた恋をしてゐたり 小満の蛇口ひねれば水どつと カウンター席空蝉の心地して

5 月　／　夏来る 夏来る日や鳥の声子等の声 八十八夜丸まつて子の眠り 部活終へバナナシェイクの泡盛ん 母探る熟睡子の指薄暑光 眼裏にいつもふるさと田植歌

4 月　／　花大根 離島ターミナルに風船の忘れ物 花の昼知らぬ子の来てよく喋る 洋館の閉ざされし門花の冷 花大根身振り大きく下校の子 囲まれてをり赤ん坊の大欠伸

3 月　／　ダーツの矢 開花宣言ダーツの矢放ちけり 初蝶やパリより来るといふ人に 任期満了沈丁の香のなかに ピザ生地を四方に広げ囀れる 不機嫌な漢字練習日脚伸ぶ

2 月　／　春星 大寒や鍋の取つ手の緩み癖 右左ペダルを踏んで春兆す 声高な噂話に亀鳴けり 呼ばれたるやうに春星瞬きぬ 話したきことの溢るる春炬燵

1 月　／　帰郷 息白きこと言ひ合へる帰郷かな トラックの荷を揺らしゆく去年今年 月白く上げ歳神の来給ひぬ 真つ先に吾子の落書初手帳 故郷の山河を称へ初稽古