堤亜由美　Ayumi Tsutsumi　2024

10 月　／　ちんちろりん 赤い羽根つけてひと駅歩かうか 先生のその後の話蔦紅葉 ちんちろりんそんな話をする齢 同窓のよしみ星飛ぶ夜なりけり ベトナムの菓子のほろりと長き夜

9 月　／　草の実 秋の新色また恋をしてゐたる 行きずりの人の会釈や夕かなかな 秋風や掃き癖つきし棕櫚帚 草の実や使わぬままの新紙幣 二百十日闇の底より風沸いて

8 月　／　南風 Ｔシャツの誉められ下手でありにけり 餞に添へる言の葉南風 何となく人と繋がり明易し 昼寝覚ざらざらしたる夢の跡 名残惜しくて二杯目のアイスティー

7 月　／　釦 過ぎし日の過ちふつと髪洗ふ 梅雨寒の緩びしままの釦かな 夕風にくぐり終へたる茅の輪かな 紅に神を宿して蓮開く 夏至夕べ異国料理をはしごして

6 月　／　薔薇の門 庭師老ゆ今満開の薔薇の門 昇降機逃避行めく緑の夜 木下闇足に馴染まぬハイヒール 同窓のよしみ日傘を回しをり 重ねたる嘘にまみれてガスパッチョ

5 月　／　風のみち 踊り子も紛れてゐたり花万朶 アトリエの玻璃の歪める花の冷 秘密基地計画飲みかけの麦茶 黄金週間路地裏に風のみち 国旗掲揚薫風の大使館

4 月　／　若木 卒業の腕伸ばせる空真青 ガーデニング日差しいつしか若木へと 燕来る島に二人の一年生 うららかや店の主人の話好き 初花や古木は野の香こぼしつつ

3 月　／　長椅子 嫁ぐ日の若鮎の川光りけり 閏日や野良猫けふも縁の上 面談を待つ長椅子や浅き春 当選の誰か呼ばれて春の昼 春浅しエチュードのまた躓いて

2 月　／　参考書 うがひして憂きことひとつ忘れけり 春菊とナッツのサラダ恋始まる 揺れ残るふらここ夕べ近づきぬ 日脚伸ぶ書き込み増ゆる参考書 チューリップ開けば風の遥かなる

1 月　／　白々と 歳晩の夕陽真直ぐに海渡る 粉雪や元祖と謳ふみやげ店 白々と屏風の前の僧侶かな 縁側のなぞなぞ遊び福寿草 幼子に小さく荒ぶり獅子頭