美智子　Michiko　2020

12 月　／　年送る 年詰まる夜通し点る工場の灯 メダル掲げて少年の息白し 空室の多き一棟月冴ゆる 皇帝ダリア一朶の雲をほどきけり 恙なきことに合掌年送る

11 月　／　時雨 イルミネーション街行く人の華やぎて 凩や赤提灯に灯の入りて 日の差せばそこに母かと帰り花 廃業の細き筆文字時雨れけり　 露草や久に訪ふ路地の店

10 月　／　夕暮 夕暮を帰る父と子木の実落つ 老いてなほ守る店の灯つづれさせ 月見バーガーときをり猫に語り掛け 今年酒座を囲むこと儘ならず 行く秋の京に一夜の泊まりかな

9 月　／　温め酒 あんぱんを買ひに銀座へ獺祭忌 一穂さす素焼きの一壺月の雨 大川にかかる大橋大月夜 夫あらばこその小店や温め酒 わだかまり解け二杯目のミルクティー

8 月　／　海恋し みはるかす沖に風立つ秋はじめ 火照りまだ残る掌海恋し 守る店の細りゆく灯やちちろ鳴く 迫るかに見ゆる頂き晩夏光 夕闇のせまるハーバー終戦忌

7 月　／　潮騒 涼風や客を待ちたる竹格子 潮騒をひとりの時間夏ショール 大都会灼けきつてビル無言なり 喧騒を来て緑陰の遊歩道 梳く髪に匂ふ湯の香や星迎

6 月　／　川床 川床座敷暮れて水音しるきかな 息抜けぬ日々を重ねて衣更ふ 花河骨夜風いざなふ水面かな 風鈴や久々に聞く佳き知らせ ホワイトジーンズ甲板に朝日浴び

5 月　／　夏来たる 三度目の恋三度目のダイエット 子に習ふジャンプステップ夏来たる　　 去りぎはに残すひと言花の冷 逝く春の軒燈にじむ京の宿 祭果て篠突く雨となりにけり

4 月　／　鳥雲に ガーデニング休校の子に声掛けて　 雛の日の水仕に心遊ばせて 客足の遠のく小店鳥雲に 花過ぎの風に身を置く舫ひ舟 満開の桜心に家居かな

3 月　／　梅の香 梅の香を添へて御水屋見舞ひかな 盆梅や一服の茶のよき加減 美ら風に揺れるカーテン子安貝 閏日の傾むきし古書正しけり　　 料峭のなほ色もたぬ一枝かな

2 月　／　盆梅 垣繕ふ指の先まで日の満ちて 盆梅や母より受けし畳の間 伝へ合ふ近況梅の見頃なり たしか猫ここに居たはづ朧の夜 鳥どちの声を四辺に垣手入れ

1 月　／　初鏡 夫は書に吾は厨に小晦日 ゆきわたる朝の日の中初鏡 子の習ぶ家のしきたり太郎月　　　 厳冬の団欒の灯に子の戻り 刻々と変はる川音月冴ゆる