美智子　Michiko　2022

12 月　／　街師走 荷の嵩に通り狭しと街師走 いまだ夢語り合ひたる木の葉髪 朽ちゆける一葉一葉に冬日かな 二階へとひとり夫ゆく小晦日 火を焼べてよりの団欒クリスマス

11 月　／　カシミア 銀座和光へカシミヤの父と母 粧へる山に抱かれ過疎の村 霧深き堂へと僧の長き列 祇王寺の色ながら散る薄暮かな これよりの旅路は遥か冬木立

10 月　／　晩秋 顔ぶれは山家育ちや栗ご飯 手文庫の夫の文読む夜半の秋 座りよき二合徳利や今年酒 小流れに添ひて山路へ初紅葉 晩秋の夕べ弦楽四重奏

9 月　／　暮れ際 暮れ際に響く子の声かくれんぼ 歌人の美しきうつしゑ萩の宿 子等を詠む医の一句星月夜 発つ人に持たすお守り野分晴 白菊や終の一首を枕辺に

8 月　／　宣誓 甲子園果て浜風の渡り来る しづかなる川は祖の地へ盆の月 秋天へ深き一礼宣誓す 敗退に青春の汗にじませて 一言にすまぬ用向き秋暑し

7 月　／　雲の峰 川風を夫と連れ立つ浴衣がけ グリーンカーテン街角の小画廊 仕舞屋の家並はいまも軒忍 総立ちとなりたる一打雲の峰 ビル群の灯り四辺に夜釣りかな

6 月　／　小路 江戸言葉行き交ふ小路月涼し 主なきセカンドハウス黴の花 アペリティフの日セーヌ河畔に杯掲げ 南吹く水牛の歩に身をゆだね 抽斗に夫の秘めごと黴匂ふ

5 月　／　鮎の宿 少年の白き指先ビーズ編む 板長の語る浅草傘雨の忌 一雨に山気満ちくる鮎の宿 母の日の一輪の白きはやかに 人里を遠くはなれて春惜しむ

4 月　／　新風 全速の少年少女風ひかる 真つ新な交換日記クラス替 ひとつ川渡れば奥の土匂ふ 北ひらく光の中を風の来て クラス替新風に窓開け放ち

3 月　／　巣立ちゆく フリスビーまつすぐ彼の胸元に 春の土踏んでバッターボックスへ むすび髪解きてまた結ふ雛の日 巣立ちゆく子との語らひ春障子 納屋に灯の一日点れる雨水かな

2 月　／　日脚伸ぶ 店先にふやす一鉢日脚伸ぶ 八朔柑半島に日の満ちてきし 残業の子を待つ冬の厨かな 母を知る人をかたへに梅見かな 卒業旅行夢のあれこれ語り合ひ

1 月　／　大旦 海神へ富士へ一礼初ボード いやさかを祈る柏手大旦 折り紙のリースの小部屋冬ぬくし 年の瀬のひと息つきし厨事 ペンと紙かたへに年を惜しみけり