高尾早弓 Sayumi Takao 2015

11 月 / 希望の灯
煙突の煙一筋山眠る
炉を焚いて日暮れの匂ひ広がりぬ
待降節第一週の希望の灯
燭高く掲げよ聖夜近付きぬ
まづ箸をつけたる冬至南瓜かな

11 月 / 海鳴り
渓底へ切りなく紅葉散りゆきぬ
地図に影さしたる紅葉明りかな
羅針盤揺れざるデッキ鷹渡る
海鳴りの届かぬ高さ鷹渡る
灯の消えて父母の声障子より

10 月 / 灯台
船底を赤く塗り終へ天高し
引き潮に現るるきざはし秋夕焼
艀船ドックへ向かふ秋入日
灯台も橋も点りて島の秋
月さやか鯨の骨に貝の棲み

9 月 / 伯方島へ
サングラスして岸壁に飛び降りぬ
石蹴の路地の奥より灘光る
渡船発つかなかなしぐれ置き去りに
鼻栗瀬戸の潮目のさやけしや
曳舟の島あひを行く秋夕焼

8 月 / 風見鶏
領事館跡に紫陽花濃かりけり
山百合やフランス山の井戸風車
文学館オープンカフェの霧笛楼
梅雨晴れやスペイン屋根に風見鶏
見送れば一つ灯となる星祭

7 月 / 定期券
木造りの新聞ポスト涼しかり
五月雨や水屋に皿の音重ね
定期券かざせば光る梅雨曇り
真夜中のエレベーターに百合香る
夕凪に平和の鐘を鳴らし合ふ

6 月 / 椅子
夏鳥の影木洩れ日をはじきけり
片蔭の椅子写生子に占めらるる
桜桃小さきを採ればまだ酸ゆし
大輪の薔薇影もなく開きけり
硝子器に映る山影夏座敷

5 月 / 一花
陽炎の向うよりバス来たりけり
鳥影の残る一花を散らしけり
花びらの散る明るさに師も句碑も
海風も山風も吸ひ鯉幟
座敷より山晴れ渡る新茶かな

4 月 / 棕櫚の葉
追悼のパイプオルガン花の冷
回廊の長きに花の散り込みぬ
白きもの干し上げ棕櫚の日曜日
ポケットの中にポケット目借時
女学園院前のバス停山桜桃

3 月 / 研究室
待針の日を反しをり針供養
掲示板前に学生木の芽風
草萌やキャンパスのなかバス巡る
料峭や研究室の窓広き
引越して来し子も入れて縄電車

2 月 / 大三島
冬霞より曳き船の現るる
渡し船島の橙飾りをり
内海に満ち潮強き島の春
初荷積み終へて船笛鳴らしけり
封緘の紅の滲みや梅三分

1 月 / 女神
菓子に入る木の実と果実待降節
待降節のイーゼルに港の絵
帆船の舳に女神聖誕祭
応へまでイルミネーション点滅す
満ち潮の水尾消してゆく初景色